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不正競争防止法、営業秘密侵害について~NTT西日本情報漏洩事件を受けて~

2023年10月17日に、NTT西日本子会社である2社が、顧客から受託したコールセンター業務に関する情報約900万件が外部に流出したと発表しました。
顧客情報を持ち出したのはシステム保守を担当していた元派遣社員で、現段階では、2013年7月頃〜23年1月の約10年間の就業期間中に、81件分のクレジットカード情報を含む情報を持ち出していたとのことです。
発表当日現在では、この元従業員は名簿の買い取り業者に情報を渡したと話している、という情報もあります。
本件は同年7月に顧客側が警察に個人情報流出に関する相談があったことがきっかけで発覚、現在警察は「不正競争防止法違反容疑」で捜査をしています。

類似の事件ですと、2022年に発覚した某すしチェーンの元社長の件についても、2023年5月に不正競争防止法違反(営業秘密侵害)で有罪判決が出ています。

ということで今回は、不正情報防止法(営業秘密の漏洩)に関するお話です!

営業秘密持ち出しの状況について

2020年に独立行政法人所不応処理推進機構が発行した、「企業における営業秘密管理に関する実態調査」では、営業秘密漏洩事故の原因は以下の通りです。
サイバー攻撃が増加する昨今ではありますが、営業秘密の漏洩事件は、内部の人間が原因であることが圧倒的に多いことがわかります。

他記事では、セキュリティシステムや体制の強化について触れていますが、仮に諸々の強化を行ったとしても、悪意を持ったに人間が情報を持ち出そうとすることを、完全に止めることはなかなか難しいことがわかります。

また、営業秘密の漏洩が実際に起きた企業に対する被害額の調査によると、全体の13%以上が1000万円以上、上位3.5%は、1億円以上の被害があったと報告しています。

ただ、営業秘密の漏洩によって発生した被害額を証明することはかなり難しいです。
そのことから、「被害額を特定できない」と回答する企業も多くあります。

不正競争防止法とは

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争と、これ移管する国際約束の実施を目的として定められている法律です。

今回のNTT西日本下請け会社の元派遣社員、某すしチェーン店の元社長の場合は、「情報の不正持ち出し」を行っており、これが「営業秘密の侵害」にあたる行為に当たる(あるいはその容疑がある)ため、刑事的措置が検討されています。

営業秘密とは?

営業秘密として扱われる情報は、不正競争防止法において、以下の3つの要件を全て満たすもの、と規定されています。
不正競争防止法上、営業秘密は以下の通りに定められています。

秘密管理性 … 秘密として管理されていること
有用性 … 有用な技術上または営業上の情報であること
非公知性 … 公然と知られていないこと

どのような行為が、営業秘密の侵害に当たるのか?

以下の要件いずれかにあたる場合、営業秘密の侵害に当たると定められています。
窃取等の不正の手段によって営業秘密を、

「取得し」
「自ら使用し」
「もしくは第三者に開示した場合」

状況によっては、対象となる情報を「持ち出した」時点で、営業秘密の侵害と認められる場合があります。
そのケースについては、下段にて詳しくご説明いたします。

営業秘密の侵害に対する法的措置

不正競争防止法に違反した場合、「民事措置のみ」と「民事・刑事両面で措置がある項目」とが適応される項目があります。
営業秘密の侵害を犯した場合は、民事的措置、刑事的措置の両方が適用されます。

【民事的措置】
 差止請求権 … 他人が違法・不当な行為を行っているとき、または行う恐れがあるときに、その行為を止めさせるための法的手続きです。
損害賠償請求権 … 故意または過失により、営業上の利益を侵害された場合、損害賠償を求めることができる。
損害額・不正使用の推定等 … 令和5年の法改正の項で後述。
信用回復措置請求権 … 故意または過失により、信用を害された場合、謝罪広告等の営業上の信用を回復するのに必要な措置を求めることができる。

など

【刑事的措置(刑事罰)】
不正競争の内、一定の行為を行った者に対して、以下の処罰を規定しています。
個人への罰則

営業秘密侵害罪 … 10年以下の懲役又は、2000万円以下の罰金
その他 … 5年以下の懲役または500万円以下の罰金

法人両罰(帆人に所属する役員や従業員らが法人の業務に関連して違法な行為をした場合、個人と併せて法人も罰すること)
営業秘密侵害罪の一部 … 5億円以下の罰金
その他 … 3億円以下の罰金

ただ、これらの法整備にはいくつかの問題もありました。
この問題にアプロ―チをしたのが、令和5年の法改正です。

令和5年(2023年)の不正競争防止法改正の内容

次に、令和4年に行われた不正競争防止法の変更点についてご説明いたします。
主に以下4つの改正が行われました。

・デジタル空間における模倣行為の防止
・営業秘密・限定提供データの保護の強化
・外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充
・国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化

このうち、今回の記事では「営業秘密の保護」について、少しだけ詳しくご説明いたします。

損害賠償請求訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として認める

【改正前】
営業秘密を漏洩した場合、元の法律でも、損害賠償請求を行うことはできました。
しかし、上記の項でも触れましたが、営業秘密等の侵害を受けた場合、侵害行為と損害との因果関係を証明したり、その損害額を計算することは難易度がかなり高いです。
そのため、従来の不正競争防止法では、

「損害額を原則 損害品の販売数量×被侵害者(営業秘密保有者)の1個当たりの利益 と推定する」

とすることで、立証負担を軽減していました。これを、「損害額の推定」、と言います。
ですがこの規定では、被侵害者本人の生産販売能力内の利益しか認められず、それを超えた部分については損害賠償の対象となりませんでした。
「生産販売能力を超える利益」というのは、例えば、本人は生産販売を行わず、第三者に対してライセンスを与え、第三者が生産販売を行った後、ライセンス料を受けるような場合を指します。

【改正後】
令和5年の法改正では、超過分は「侵害者に使用許諾(ライセンス)したとみなし、使用許諾料相当額として損害賠償額を増額できる、という規定を追加しました。

使用の推定の拡充

【改正前】
営業秘密が第三者の手に不正な手段で渡ってしまった場合、この第三者が実際にこの営業秘密を利用しているのか、ということを、本来の営業秘密の保持者が立証することは、とても困難です。
そのため、改正前の法律でも、
・被告が営業秘密を不正に取得したこと
・被告がその営業秘密を使用すれば生産できる製品を生産している
この2点を満たしている場合は、被告がその「営業秘密を使用していると推定する」、という規定が設けられていました。
これを、「使用の推定の規定」と言います。
しかしこの規定は、元来の法律だと、産業スパイのような、悪質性の高いものにしか適用できませんでした。

【改正後】
推定規定の適用対象を、拡充しました。
・もともとアクセス権限のあるもの(元従業員、業務委託先など)
 許可なく情報を複製、領得した、など
・不正な経緯を知らずに転得したが、その経緯を事後的に知った者の内、悪質性が高い者(警告後も対象となる記録を破棄しないなど)
これらに対しては、悪質性が高いとして推定規定の対象となりました。

さいごに

営業秘密の漏洩等事故・事件の原因は、いずれの年代でも、現職・元職の職員その他内部の人間が、故意に持ち出していることが最多です。
情報の持ち出しが、最終的には本人の不利益になることを周知・教育するとともに、「違反行為をさせない」環境づくりが肝要です。

【関連する過去記事】

漏洩した情報が、個人情報だったらどうなっていたでしょう?
個人情報保護法の改正内容と、報告の義務について、以前ご紹介した記事はこちら。

長期間にわたって発生していたセキュリティ事故。
どこかの段階で気づくことはできなかったのでしょうか?
セキュリティの見直しについての記事はこちら。